日誌 過去の日誌 2021/06/09 水曜日 晴れ 上顎大臼歯の根管治療の不備から上顎洞炎になっているケースがよくあります。大臼歯の根管治療は難しいのですが、CBCTで診断。ラバーダムで細菌の侵入を防止して、マイクロスコープを使ってニッケルチタンファイルで根管を清掃拡大すれば以前に比べると遥かによい結果が得られるようになりました。
2021/04/16 金曜日 曇りのち雨 口が開きにくい患者さんで、下顎角が発達しているケースには、咀嚼筋腱・腱膜過形成症の場合があるようです。昔からあったのでしょうが、病名として確立したのは2008年だといいます。特徴的な四角い顔貌に加え、開口時して奥歯の後ろの部分に硬い腱をふれるなら咀嚼筋腱・腱膜過形成症と診断するようです。口が開かない場合、顎関節症のClosed lock(関節円板の前方転移)または咀嚼筋の拘縮だといわれてきましたが、顎関節症の治療法であるTCHの指導や咬合挙上床に全く反応しない場合はこの病態を考慮すべきかもしれません。発生率は1.8%との調査があります。 2021/04/09 金曜日 晴れ 下記のケースに関連して『クリニカルマッサージ』やYouTubeの顎関節症関係の動画を見てみました。外側翼突筋のマッサージで治療すると主張する動画が多いのですが、下図のドーソンの図にあるように外側翼突筋はかなり内部にあるため、外から触ることができるのは下顎頭に付着する腱ぐらいだと考えられます。そして口が開かないのは咬筋、側頭筋、内側翼突筋といった噛む筋肉が伸びないためであり、外側翼突筋が収縮しないのためではないと考えられます。そのため外側翼突筋をマッサージするという動画は実は咬筋深部の拘縮をほぐしているのではないかと思います。坂戸孝志氏の動画では、4種類の咀嚼筋のうち外から触ることができるのは二つ(咬筋と側頭筋)であり、外側翼突筋に触るには口の中に指を入れるしかないといっています。したがって4/5日の記述は外側翼突筋のマッサージではなく咬筋深部のもみほぐしと変える必要がありそうです。 2021/04/05 月曜日 晴れ 『下川の臨床咬合』3ページに「口が開かない患者さん、下川先生のトリガーポイントマッサージでスパーン」と口のあく絵が載っています。今日おいでになった患者さん。口が指二本入らないぐらいの開口障害で右顎の痛みがあり食べられないと困っておいででした。顎関節症のうち、Closed lockだろうと診断しましたが、顎二腹筋後腹や咬筋、内側翼突筋の付着部である下顎角の触診では特に痛みはありませんでした。そこで、口を開けてもらって顎関節部を圧迫したところ徐々に口が開き、一分もしないうちに指3本分(4p)開き、驚きました。違和感は残っているが、開けるときの痛みは無くなったとおおいに感謝されました。顎関節部の圧迫が関節を前下方に移動させることになったのか?外側翼突筋のマッサージになったのか?フォローしてご報告するつもりです。
2021/03/02 火曜日 雨のち晴れ 下川先生三部作には印象深い文言があふれていますが、今回読み返してみて一番印象的だったのは「トップダウントリートメントのトップは咬合だ」でした。50年ぐらい前の学生時代クラウンブリッジの教授であった松浦智二教授の口癖は「ハイジーン、フォース、アピアランス」でした。歯科治療は口腔衛生、咬合力、審美性に注意を払うべきだということでしたが、ハイジーンの確立の実働はハイジニスト=歯科衛生士です。歯科医は、口腔衛生の確立した(しっかりプラークコントロールできた)口腔に、よく噛めて審美的な治療を行うのですが、その根底にかみ合わせの問題横たわっています。松浦先生の学年末試験は「歯科のブリッジの具備条件を鉄橋との比較で述べよ」だったとおもいます。むし歯でもないのに歯が痛いときはかみ合わせが問題になっていることがしばしばあります。アンテリアガイダンスとセントリックストップがキーワードで、前歯が臼歯を守り、臼歯が前歯を守るという相互庇護咬合Mutually protected occlusionが下川咬合論の中心概念だと理解しました。 2021/02/20 土曜日 晴れ
昨日届いた下川先生の本をざっと読み終えた。これで下川先生のセミナーの内容すべてが出そろったようだ。手技としては古いと思われる根管貼薬剤としてFCを使うこと、綿栓で根管内をふき取ることなども自己の長期の経過観察からの考察が背景にあり強い説得力があります。108ページの「セミナーを受講した先生が根の治療をした歯に補綴を依頼された時、これでは根の先に病変ができると電話し、口論になった」とのエピソードは下川先生の面目躍如と笑ってしまいました。また、83ページに「ある講演会でこの症例を提示した際、こんなむちゃくちゃな根管治療をして‼」と高名な先生に厳しく叱責されたとあります。これが下に記した1980年の森克栄先生の講演会での話とすれば「こりゃやりすぎだよ」といっただけだったと記憶していますが、いわれた本人の記憶のほうが正しいのでしょう。明日はこの偉大な臨床家の面影を偲んで三冊を読み返そうと思います。 2021/02/18 木曜日 晴れ
2020/12/26土曜日 晴れ 久しぶりにドーソンの『ファンクショナル オクルージョン』を読み返していて、理論と個別対応ということが頭に浮かんできました。というのも先日から右顎に問題を抱えた総義歯の患者さんのケースで試行錯誤したからです。「総義歯治療においては、東の横綱が咬合、西の横綱が印象」(元東京医科歯科大学教授早川巌先生)といわれており、中心位で咬頭篏合を与えることが大原則ですが、右顎の関節円板の前方転移があり、本来の意味での中心位は失われており、後方に誘導すると右斜め奥に5ミリ以上も後退します。そのため、その位置では習慣位で並べた左側の人工歯がほとんど当たらなくなるほどでした。そもそも右下の智歯が半埋伏状態で腫れ、痛くなって来院されたのですが、右側に残根が数本残っている上に作られた総義歯が入っており、右ばかりで噛んでいたケースでした。かみ合わせは後退位と習慣位のそれぞれの位置で咬合器にマウンして咬合調整し、右で噛めるようにしたのですが、今度は噛むと右の奥が引っかかるとの訴え、後顎舌骨筋線窩に傷があるにもかかわらず、舌の突出や嚥下時ではヒットチェッカーでのあたりも見当たりません。かむと引っかかるとの訴えなので、長い間右ばかりで噛んでいたため右の内側翼突筋が肥大し噛んだ時に前方に膨らむためではなかろうかと考え、その部を多めに削合することでやっと安定したのでした。理論(本)では右ばかりで噛んでいて、右顎関節が後方に転移しているケースといった個別の状態は捨象されています。現実では、生物学的な原則を考慮しながら、事象の原因を考える必要が出てくるのが歯科臨床の難しさでもあり面白さでもあります。 ドーソンは顎関節症と咬合は関係ないというNIHの宣言以降の考え方をWoozle effectだとして批判しています。京都と東京でドーソンの講演を聞いたのが1987年4月、あれから33年経ちました。この間著書を2回改訂し、2017年には新しくマニュアル本を出版しています。ドーソンは2019年に89歳の生涯を閉じました。
202011/2月曜日 雨 大阪歯科大学細菌学教室の福島久典教授(現在は退官?)の著作を数冊読みあらためて感染根管の治療の難しさ認識しています。20年ほど前に出版されていたにもかかわらず今まで読んでこなかったのが悔やまれます。もう一つの課題は顕微鏡を使うにあたって下顎のミラーテクニックに慣れること。上顎の歯をミラーに映してみることは慣れていますが、下の歯を治療するときは、ミラーは舌の排除に使い,直視で仕事をしてきました。下顎の歯をミラーに映してみると近心(前)と遠心(奥)が逆転するため手が逆に動いてしまいます。同じミラーテクニックでも眼(顕微鏡では対物レンズ)→歯→ミラーの並びになる上顎と眼→ミラー→歯の並びになる下顎では前後が逆になります。これについて山梨南巨摩郡の秋山先生は上顎ミラーと下顎ミラーがあると表現しています。下顎ミラーが難しいことは寺内先生や三橋先生がすでに書いていたのですが、実際にやってみるまではその理由がよくわかりませんでした。なれるしかないようです。 2020/09/28 月曜日 晴れ シエン社から『口腔感染症の脅威』が届いた。100年前の中心感染論focal infection theoryが当時はなかった分子生物学で証拠固めして蘇っている。中心感染論は80年前に否定されたというのが米国歯科医師会や米国根管治療学会の公式見解ですが、根拠がないと一蹴している。ややオカルトっぽいところがありますが、中心感染説が広まらなかったため、能天気な歯科治療がいまも続いている『手仕事の医療』106頁)といわれないためにも根管治療は細菌との戦いであることを再認識する必要がありそうです。 2020/08/30 日曜日 晴れ 昨年年4月の日誌に、あと20〜30年すれば鋳造冠は無くなるだろうと書きましたが、歯科医療におけるデジタル化と脱メタルは思った以上に早く訪れそうです。9月から前歯にもCAD/CAM冠が導入されます。今年4月の診療報酬改定で印象(型どり)がデジタル化(写真データ)されるとのうわさがありましたが導入は見送られました。しかし、この勢いだと二年後には保険診療に導入されるかもしれません。400万円程する読み取り装置が必要ですが、口腔内で直接読み取ったデータに基づき、コンピュータで設計製作された冠(CAD/CAM冠)が装着される日が近いと思います。そうなると矯正治療もデジタル化されることになりそうです。インプラント、CBCT,マイクロスコープに続く歯科臨床の大変革の前夜を迎えているのだとおもいます。 2020/05/19 火曜日 晴れ 40年前(1980年2月)の森克栄先生の講演テープを聞きなおしています。矯正的挺出に伴う歯周組織の取り扱いや、アップライト,付着歯肉(歯肉移植)など学際的な考え方は少しも古びていないことに驚きます。テクニックや機材は大きく進歩したが、考え方自体はあまり変化がないように思えます。その後のセミナーや講演会で聞いたことが混ざり合っているため大博多ホールで聴いたことだけではありませんが、自分の臨床に大きな影響があった講演だったと思います。それも小佐々先生に博多の講演に行かせてもらったのがきっかけであり、九州歯科大学の保存学教室の故津覇実先生の推奨で、津覇先生の弓道部の先輩であった小佐々歯科に務めることになったこと、そもそも九州歯科に入学したのは高知大学の岡村収先生の下で北九州市八幡出身の高森道雄君と一緒に卒論を書いていたこと、一般教養の生物学でコンチキ号の冒険の話を岡村先生から聞いたことに興味を覚え数学専攻から生物学専攻に変えたことなどの偶然の出会いの結果です。この大筋に至る様々な出会いと交流があり、どの出会い一つとっても人生が変わっていただろうと思うとすべての出会った人々に懐かしさと感謝の念が沸いてきます。 2020/04/20 日曜日 晴れのち曇り 新型コロナウイルス治療薬として期待されているアビガンはRNAウイルスを構成する4つの塩基の一つであるグアニン類似物質だとのこと。4つの塩基はアデニンとウラシル、 グアニンとシトシンで結合しています。アビガンはグアニンの代わりにシトシンと結合するためウイルスが増殖できなくなるとのこと。なお、レムデシベルはアデニン類似物質だとのことです。原理的にはよく効きそうであり、ウイルスの少ない初期に投与すれば効果的だと考えます。安易に投与すると余ったアビガンを妊婦などが服用するケースが出てくる可能性が排除できないので入院して医師の管理下での服用のみ認められているのだとのことです。羹に懲りて膾を吹くだと思います。 2020/04/08 水曜日 晴れ 前回の日誌から一か月足らずで、コロナウイルス感染者が大きく増加しました。高知ではいったん12人で落ち着き3月の終わりには全員退院したとのニュースがありましたが、その翌日から毎日のように感染者がでて39人になってしまいました。歯科医院でもマスク、手袋、手指の消毒剤などが必須ですが、ゴム製品を作っているマレーシアからの輸出が止まったため、手袋、根管治療に使うラバーダムが不足し始めました。 2020/03/15 日曜日 晴れ 古くなった診療台を入れ替えました。3年ほど前に大きく変わったとのことで多くのメカニックな部分がエレキに変わっていました。モリタの技術者がいつもは兵庫県を担当しているとのことでしたので、同級生のA君が佐用にいると話すと、以前はよく行っていたとのことでした。今もHPOを使っているのかな? 2020/03/13 金曜日 晴れ PCR検査について最も明確に説明してくれたのは、南国市出身の仲田洋美先生でした。検査によって感度、特異度が異なるが、コロナウイルスに対するPCR検査の感度は40%程度、特異度は90%程度なのだから、多くの人に実施するスクルーニング(ふるい分け)には使えない。これは医学部の3年生4年生で習うことだと手厳しい。医療界の天皇といわれている久史麿東大名誉教授に説教を垂れたおなごだと自称しています。YouTubeの文化人放送局で見ることができます。おすすめ。 2020/02/19 水曜日 晴れ 下川公一先生のHPがまだ残っており、下記の日誌で記したケースが掲載されていました。下の日誌でガッタパーチャは根充材の誤りです。吸収したのはシーラーでガッタパーチャは根尖から出ていないようです。
2020/02/18 火曜日 曇りのち晴れ 下川公一先生監修の「下川の臨床咬合」受講ノートが届いたので早速読んでみました。歯科臨床で最も議論のあるかみ合わせの問題について、独自の観察と考察にあふれた本で一度読んだだけでは消化できませんが、歯科臨床に対する他に類を見ない情熱が伝わってきます。下川先生の名前を初めて知ったのは、京都の小佐々歯科に勤務していた1980年2月16日。福岡の大博多ホールで開催された九州歯科大学同窓会主催の森克栄先生の講演会でスライド係をされていたのが下川先生でした。質問者を兼ねており、ご自分の症例から「感染根管で根尖の汚染を除去しようとするとどうしてもこうなる」と一ミリ程度ガッタパーチャが根尖から出たスライドを提示し、森先生から「こりゃやりすぎだよ」とコメントがあった場面が記憶に残っています。あれから40年、当時下川先生は35歳、森先生は45歳ぐらいだったと思います。15年ほど前だったか、高知に下川先生が講師としてお見えになったとき歓迎会の席でそのことをお話ししたところ、翌日の講演で「昔、偉い先生にやりすぎだといわれたケースがこうなった」と提示されたスライドで、オーバーしていたはずのガッタパーチャの上にセメント質が乗っており、あたかもわずかにアンダー根充のようになっているレントゲンに驚いたことがあります。その他3回ほど講演を聴く機会があり、著書も数冊読みましたが、今回はまた、強烈な印象の残る本です。下川先生は昨年暮れ逝去されました。合掌。
2020/02/17 月曜日 晴れのち曇り、夜から雪 上下の歯が当たっていない状態をオープンバイトといいます。前歯がオープンバイトになっているケースがほとんどで、指しゃぶりから始まり、飲み込むときに舌を突き出す癖に移行しているケースがほとんどだと考えられています。まれに犬歯から第一大臼歯にかけての横の歯がすいているケースがあります。 先日県外で顎外科前後の矯正を行った患者さんがそういう状態で来院されました。治療直後は噛んでいたとのことで治療後の後戻りを防ぐ保定装置をしていないとのことでしたので、矯正後の後戻りか舌癖によるオープンバイトだと考え咬合調整をしました。下図参照。全然違うと喜ばれましたが、一週間後に見ると少し当たる部分が少なくなっていました。もう少し咬合調整し、舌を口蓋につけるよう意識するようにしてもらったところ、その一週間後にはさらにかみ合わせが良くなったとのことでした。舌癖の指導の効果を実感しました。 新型コロナウイルス肺炎が流行するかしないかのところにあります。インフルエンザと同じ対策をとるのが効果的だといわれています。花粉も飛び始めていますので花粉症予防もかねてマスク、手洗いを徹底すれば中国武漢のようなことにはならないのではと楽観しています。当院入口に、手指消毒のアルコール製剤ウエルパスを置いてありますので、来院前後にお使いいただければ幸いです。 2020令和2年/02/09 日曜日 晴れ 土曜日は東京歯科大学口腔外科片倉朗教授の講演会。この10年で口腔外科のガイドラインが整備され知識をアップデートする必要があるとのことで@抗菌剤の使用についてA顎が小さくなったことにより智歯抜歯時の舌神経の損傷が増えていることB抗凝固剤を服用している患者さんへの対応C口腔粘膜の疾患について講演された。時折ジョークを交えての御講演で大変面白く聴くことができました。私が事前の質問で出していたSAHO症候群についてもご説明があり、根尖病巣や金属アレルギーと関係のある掌蹠膿疱症は全体の14%程度であるとのことでした。皮膚科の雑誌を読んでかなりの割合だと思っていたので意外でしたが勉強になりました。帰ってすぐシエン社に『新・口腔外科はじめましょう』を注文しました。 私が抗菌剤の使用を変えるきっかけになった本を出している岩田健太郎神戸大学医学部教授が新型コロナウイルスについての討論番組に出演していた。武漢の死亡率の異常な高さについて医療供給体制の不足のみでは説明できないように思える。混合感染かウイルスの変異があるのではないだろうか? 2月6日のBSフジプライムニュースで、中国人経済学者の柯隆氏が「武漢は四面楚歌の楚であること、言葉が違うので同じ中国でもすぐわかり差別される。気性の荒い土地柄なので暴動の中心になってきた歴史がある」との発言を興味深く聴きました。
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